作品解説・かぐや姫
 
  


 

日本人なれば老若男女誰もが知っているかぐや姫。
かぐや姫の登場する「竹取物語」は、平安前期の成立という事になっていて、 作者未詳の、平安時代の古典文学として広く知られております。

 …が、実は平安以前、飛鳥・奈良時代に、「竹取の翁」という名前の物語が存在します。

主人公は竹取の翁(たけとりのおきな)、つまり竹を取って生活しているお爺さんで、
他には名もない若い娘達が数人登場し、野原で歌を詠み交わすという内容。
かぐや姫はそこには登場しませんでした。
なんと、かぐや姫よりも、竹取のおじいさんの方が先に出来上がっていたのですね。

 なので、平安前期に生まれた物語、というより、
「平安前期に今の形が成立した物語」と考えられます。

人々の間で語り継がれて来るうちに、徐々に出来上がった物語ですので、
特定の作者というものは、存在しなくて当然かもしれません。
 

 ちなみに「かぐや姫」の名も、
「美しく光り輝いて家の中を照らしたから」という説の他に、
「かくやなる姫、かくなる姫(そのような姫)の言葉から来たものだ」、という説があります。


さて、この物語は、有名なこの文章で始まります。

「いまは昔、竹取の翁といふものありけり。 野山にまじりて竹を取りつつ、よろづの事に使ひけり。
名をば、さかきの造となむいひける。」

 昔、竹取の翁というおじーさんがいた、野山にわけ入って竹を取り、それで物を作ったり、たくさんの事に役立てていた、名はさかきの造(みやつこ)、 と言った  
…という様な意味です。

 この「名をば、さかきの造(みやつこ)となむいひける」
(「さぬきの造」となっている訳もあり)の部分ですが、非常に興味深いです。

 「さかき」というのは京都府内の地名であり、「さぬき」というのは香川県の古名ですね。
 どちらの地であったのか、はたまた別の土地が舞台なのか、未だ確定されてはいません。
 

 そして「造(みやつこ)」の部分ですが…

以前、「中臣鎌足」の作品解説の時にも説明致しましたが、
古代、この国は法と官位で定められた律令制度の身分の他に、 「姓」(かばね)という生まれながらの身分階級によって、生い立ち、出世、宗教、職業まで完全に支配されておりました。
 

上から 「臣、連、君、首、直、史、村主、造、県主…」と言った感じです。

例えば蘇我馬子や小野妹子は「臣」、物部守屋は「連」、
 秦河勝は「造」の姓を持っていました。
 

 そしてこの「造(みやつこ)」というのは奴隷階級にあたります。

 現在でも血筋や家柄が重んじられているように、法と官位が成立された平安初期でも、
 もしこの意識、というか日本古来からの身分階級が人々の中に色濃く残っていたとするならば、「名をば、さぬき(さかき)の造となむいひける」という表現は、
 
 
〈さかきの造という名前の人がいた〉というよりも、
〈とりあえず平安京から外れたど田舎のさかき(さぬき)という場所に、竹を取って暮らしているような、とても卑しい「造」の身分のお爺さんがいた〉と読み解くべきではないでしょうか。
 
 

 現代のように道徳についてそこまで厳しく問われる事の無い古代~中世にかけて、
 都の人々から嘲笑の対象になる様な、 ものすんごいど田舎の、
若さも力も権力も金も子孫も無い、竹を取って暮らしているような男…汗
 

しかしそんなお爺さんが竹を切ったら美しい娘を見つけて拾って大喜び、
 お金もわんさか出来て大出世、 という内容で、シリアスな涙をさそう物語でもなく、
しみじみとあわれでもなく、 コミカルな物語として、
人々の笑いを誘った物語であった事でしょうアップ


そう考えた瞬間に、この物語が、上流階級から平民まで幅広く知られ、
楽しまれ、多くの人々に語り継がれて来た作品である事がうかがえます。



竹から生まれ、美しく成長し、多くの貴公子に求婚され、
ついには帝にまで結婚を申し込まれるかぐや姫。
しかし、かぐや姫は月の住人であり、月に帰らなくてはなりません。

 それを知った帝は、2千人の兵士にかぐや姫の家を警護させますが、
天人の前にはなすすべもなく、
帝に手紙と不死の薬を残して、かぐや姫は月に帰ってしまいます。
 

  「御文、不死の薬の壺並べて、火をつけて燃やすべきよし仰せたまふ。
そのよしうけたまはりて、士どもあまた具して山へ登りけるよりなむ、その山を ふじの山 とぞ名づけける。
その煙、いまだ雲の中へ立ち上るとぞ、言ひ伝へたる。」



帝はかぐや姫のいなくなった現世に、長く生きている気もしなくて、
その手紙と不死の薬を駿河の国(現在の静岡県)の山で燃やすように、
勅使に申し付けます。
その山は、「たくさんの兵士が山を登った」ということで、「富士の山」と呼ばれるようになったそう。
かぐや姫が残していった物を燃やした煙は、いまだ雲の中に立ち上っていると、
言い伝えられている~
 

この文章で、竹取物語は終わります。
 


ある日突然、幸運の女神のような、まるで夢のように美しい娘を手に入れて、
 その娘を天皇に差し上げて、天皇家の外戚・摂政・関白になれたら…
いやいや、そこまでは行かなくても、皇子さまや貴族の方々に見初められて、
その妻となってくれて、我が家が大出世出来たら…。
 

全ての人々が恋いこがれるような、美しさと金と権力の象徴であるかぐや姫。
しかしやはり、かぐや姫は夢の存在、 最後は全ての人の元より去って行ってしまいます。


当時の人々が、どうしようもなく笑いながら憧れながら読んだ、
最高に面白く切ない、夢物語であった事でしょうアップ